持ち回り契約を解説!トラブルを回避するための注意点やメリットを解説

持ち回り契約とは


この記事を書いた人
小島 優一
宅地建物取引士

宅地建物取引士、2級ファイナンシャルプランニング技能士。生命保険会社にてリテール業務に従事した後、2014年に不動産仲介会社であるグランドネクスト株式会社を設立。 2021年より幻冬舎ゴールドオンラインにて不動産を通じて財産を守る、増やす、残す記事を連載している。 >> 詳細はこちらから

この記事のまとめ
  • 持ち回り契約とは
  • 持ち回り契約のメリット・デメリットを解説
  • 持ち回り契約の手順

「持ち回り契約」という言葉を聞いたことがありますか?
不動産売買契約において、通常は売主と買主が同席して契約を締結するのが一般的です。しかし、買主と売主が同時に契約できない場合に、この持ち回り契約が利用されることがあります。この契約方法は、当事者が直接対面せずに手続きを進めるための手段ですが、対面契約に比べリスクが高く、進め方を誤るとトラブルにつながることもあります。

本記事では、持ち回り契約の基本的な仕組みや進め方、さらには発生しうるトラブルについて詳しく解説します。

持ち回り契約とは何か?

持ち回り契約とは、不動産の売買契約における特定の手続き方法であり、売主と買主が同席できない場合に、不動産仲介業者が双方のもとを訪れ、契約の成立に必要な書類に署名や押印を行うプロセスを指します

通常、不動産取引では対面での契約が求められますが、コロナ禍の際は対面を避けるリスクが上回り、持ち回り契約が増加しました。

その後も現在人の多忙なライフスタイルに合わせて、持ち回り契約が選ばれることが増えています。

多忙以外で持ち回り契約が選ばれるケース
  • 遠方に住む場合:売主や買主のどちらかが他の地域に住んでいるとき、直接の対面が難しいため、持ち回り契約が利用されます。
  • 家庭の事情:離婚後の財産分与や、親族の代理による契約など、さまざまな家庭の事情に対応できます。

ただし、持ち回り契約にはいくつかのリスクも伴います。

売主と買主が直接対面しないことで誤解が生じたり、信頼関係が築きにくいという側面もあります。

持ち回り契約の進め方

持ち回り契約では、売主と買主が対面せずに、それぞれが別々のタイミングで契約を締結します。

どちらが先に契約を行うかはケースバイケースで、契約の進め方が異なる場合があります。

小島解説員小島解説員

ここでは、買主が先に契約をする場合と売主が先に契約をする場合、それぞれの手順について解説します。

買主が先に契約をする場合

持ち回り契約において、買主が先に契約を行う場合は、慎重に手続きを進める必要があります。

この際、買主は売主が契約書に署名する前に、手付金を仲介業者に渡す必要があります。

1.書類の確認: まず、不動産業者とともに売買契約書の内容を確認し、買主が納得できることを確認します。この段階で、不明点や疑問があれば、必ずクリアにしておきましょう。

2.署名捺印の手続き: 買主は契約書に署名・捺印を行いますが、売主が先に実印を押印し、必要書類を提示していることが前提です。これにより、買主は売主の所有権を確認した上で手続きを進められます。

3.手付金の支払い: 買主は契約書に署名後、定められた手付金を支払います。この際、手付金の支払いに関する領収証を受け取ることが重要です。また、現金での支払いだけでなく、振込も選択肢として利用できます。

4.契約の完了: 全ての手続きが終わった後、契約が正式に成立します。この際、必ず領収証の控えを保存しておきましょう。

しかし、このプロセスを踏む前に、売主が確実に本物の所有者であることを確認しておくことが大前提です

最近、あるサブスクリプションチャンネルで人気のドラマ『地面師』でも、このような場面が描かれていましたね。

売主様の本人確認は非常に重要なプロセスです。

なぜなら、これを怠ると、偽の売主に引っかかり、詐欺の被害に遭うリスクがあるからです。

不動産の売買において持ち回り契約を行う際は、不動産業者が売主様の本人確認と所有者確認をしっかりと行う必要があります。

買主にとっても、支払った手付金が偽の売主や不動産仲介会社に不当に取られてしまうことを避けるために、事前の確認が不可欠です。

また、不当な契約によって手付金が返ってこないトラブルを避けるためにも、必ず仲介業者からの預かり証を保持することも重要です。

売主が先に契約をする場合

一方、売主が先に契約を行う場合の流れは以下の通りです。

こちらは、仲介業者が売主と買主の両方を担当する「両手仲介」の前提で解説します。

1.売主の本人確認: 仲介業者が売主の自宅を訪問し、本人確認を行います。この段階で、売主が正当な所有者であることを確認するために必要な書類(権利証や実印など)をチェックします。

2.契約書の署名・捺印: 売主が契約書に署名・捺印します。この際、仲介業者が売主から手付金の領収証を受け取る必要があります。

3.重要事項説明の受領: 不動産業者から、重要事項説明書や付帯設備表に対する説明を受け、必要な署名を行います。このプロセスは、売主と買主の双方が契約の内容を理解するために不可欠です。

4.手付金のやり取り: 仲介業者が買主を訪問し、買主が契約書に署名・捺印します。買主は仲介業者に手付金を渡し、売主の領収証と引き換えに仲介業者から預かり証を受け取ります。

5.最終確認: 仲介業者は、売主から手付金と預かり証を交換することで、手続きが完了します。

売主が先に契約をする場合、手付金の領収証は必ず仲介業者から受け取るようにしましょう。

山口編集者山口編集者

これにより、手続きの透明性が確保され、トラブルを未然に防ぐことができます。

持ち回り契約の注意すべき点

持ち回り契約は、便利さと同時にリスクを伴う手続きです。

特に、売主の確認作業が行われない場合、トラブルの原因となることがあります。

例えば、契約に関する重要な情報が共有されないことで、後から「その話は聞いていなかった!」というようなトラブルが発生する可能性が高まります。

見落としがちな付帯設備表に関する不一致は、特に注意が必要です。

さらに、持ち回り契約では、売主の本人確認が不十分になることが多く、詐欺のリスクが高まります。

たとえ運転免許証の顔写真があったとしても、実際にその人物と対面しない限り、本人確認が十分とは言えません。

このように売主を装った詐欺行為は「地面師」と呼ばれ、最近ではドラマでも話題ですね。

地面師詐欺は昔から存在し、現在も実際に発生しているため、大変注意が必要です。

見知らぬ相手に大金を支払うことになるため、この点をしっかり理解しておくことが重要です。

また、持ち回り契約では、高齢者の売主が判断能力を欠いている場合、そのことに気づかずに契約が進行するリスクがあります。

契約が無効とされる可能性もあるため、特に注意が必要です。

このようなリスクを軽減するためにも、事前に十分な確認を行い、信頼できる業者を選ぶことが大切です。

持ち回り契約を行う際の主な注意点
  1. 手続きは売主から行う
    売主が先に手続きすることで、本人確認をしっかりと行い、なりすまし詐欺を防ぎましょう。
  2. 手付金授受の際は預かり証を発行してもらう
    手付金の授受時には、必ず仲介業者から預かり証を発行してもらい、紛失やトラブルを防止します。
  3. 信頼できる不動産業者に依頼する
    しっかりした確認作業を行うために、信頼性の高い不動産業者を選び、手続きの進行を見守ることが重要です。

更に、買主が先に契約をする際は、手付金の預かり証の発行が特に重要です。

なぜなら、万が一売主が契約をキャンセルする際、手付金が返還されない可能性があるからです。

預かり証がなければ、買主は返還を求める際に不利な立場に立たされることがあり得ます。

このように、持ち回り契約は便利である一方、リスクが伴うことを十分に理解したうえで進めていくことが求められます。

小島解説員小島解説員

山口編集者山口編集者

信頼性と透明性のある業者との連携が、安心できる不動産売買を実現するための大きなステップと言えますね。

持ち回り契約のメリット

持ち回り契約には、さまざまなメリットがあります。主な利点は以下の通りです。

スケジュール調整が容易

持ち回り契約では、契約日を設定する際に不動産会社が出向いてくれるため、当事者の都合に合わせて手続きを進めることができます。

これにより、忙しい方や海外在住の方でも、スケジュールを気にせずに契約を進めやすくなります。

感情的トラブルの回避

対面での契約がないため、契約当事者同士が顔を合わせることによる感情的なトラブルが発生しにくいという利点もあります。

特に、離婚後の不動産売却など、微妙な人間関係が絡む場合には、相手と対面せずに手続きを進められることは大きなメリットです。

コスト削減

持ち回り契約では、遠方に住む場合でも交通費や移動時間が発生しないため、経済的な負担が軽減されます。

また、時間を有効に活用できるため、他の重要な業務やプライベートの予定に集中することができます。

まとめ

持ち回り契約は、時間が無い顧客にとって不動産売買を進めるための便利な手段ですが、注意が必要な点も多い取引と言えます。特に、売主の本人確認が不十分になるリスクや、詐欺に遭う可能性が高まるため、慎重に手続きを進めることが求められます。また、契約当事者が対面しないために、感情的なトラブルを回避できる利点がある一方で、誤解や意見の食い違いが生じる可能性も考慮しなければなりません。

さらに、持ち回り契約では、契約手続きに関する責任が仲介業者に重くのしかかるため、信頼できる業者を選ぶことが極めて重要です。

総じて、持ち回り契約にはメリットもありますが、デメリットやトラブルが発生するリスクの方が高いといえます。特に、遠方に住んでいるなど特別な事情がない限りは、対面での契約が望ましいでしょう。最近ではコロナ禍も収束していますので、持ち回り契約を選択することのメリットは以前に比べて低く感じます。それでも、持ち回りでの取引を選ぶ場合は、注意点を十分に理解し、慎重に進めることが重要です。