- 不動産売買契約の手付金の相場や特徴を解説
- 手付金が安全に守られる保全措置
- 手付金と頭金の違いを紹介
不動産の購入を検討している方にとって、手付金は重要な要素の一つです。手付金は、売買契約を結ぶ際に買主が支払う初期費用であり、取引の信頼性を確保する役割を果たします。しかし、手付金の詳しい役割やその意味を理解している方は意外と少ないかもしれません。例えば、手付金が返ってくる条件や、法律で定められた手付金の上限について知っている方は少ないでしょう。
本記事では、不動産売買における手付金が果たす基本的な役割や金額の相場、契約後の支払いに関する注意点、さらには契約解除の際の手続きについても解説します。「手付金はいくらが相場なのか?」「手付金は返ってくるの?」という疑問にもお答えします。
山口編集者
手付金とは
まずは、手付金について詳しく解説していきますが、実際の不動産売買契約書の条項には以下のように定められています。
(手付)
第3条 買主は、売主に手付として、この契約締結と同時に標記の金額を支払う。 2 手付金は、残代金支払いのときに、売買代金の一部に充当する。
参照:全国宅地建物取引業協会連合会(土地売買契約条項から抜粋)
こちらは手付金に支払いに関する条項ですが、まず支払うタイミングとしては契約締結と同時にと記載があるように契約日に支払いをします。
また、残代金支払いの時に、売買代金の一部に充当するとあります。
そして、不動産売買の基本的な流れとしては、申込、契約締結、残代金支払いと手続きが進んでいきます。
申込のタイミングで申込証拠金というお金が必要な場合がありますが、申込証拠金に明確な法的位置づけはなく、購入意思があることを示すために5~10万円程度、不動産会社から要求される性質のものになります。
そして、契約が成立しなかった場合は返還されます。
そして手付金は契約締結の際に必要となりますが、ここで手付金が持つ4つの意味を解説します。
手付金の4つの意味
①証約手付
契約が成立したことを証明するための証拠という意味で交付される手付金です。
基本的に、不動産売買における手付金には最低限、証約手付の意味が込められています。
②解約手付
当事者が契約の履行(実際に行うこと)に着手するまでの間は解除権を留保(解除権を持っている)し、解除したい場合は、買主は手付金を放棄し、売主は手付倍返しで清算できるもので、以下の図がイメージとなります。
③違約手付
当事者に債務不履行があった時、違約罰として、損害賠償とは別に当然没収できる意味で交付される手付金です。
④損害賠償額の予定
当事者に債務不履行があった時、予定された損害賠償として、没収または倍額を支払う意味で交付される手付金です。
具体的な契約においては、これらの中からいくつかの意味が含まれています。
最低限、証約手付の意味は含まれており、民法上は解約手付の意味を含ませることが原則定められています。
買主が売主に手付を交付した時は、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を償還して、契約の解除をすることができる。
参照:民法第557条第1項
山口編集者
小島解説員
手付金が返ってくるケース
(融資利用の場合)
第19条 第2項
表記の融資未承認の場の契約解除期限までに、融資の全部または一部について承認を得られないとき、又、金融機関の審査中に表記の融資未承認の場合の契約解除期限が経過した場合には、本売買契約は自動的に解除となる。
第3項
前項によってこの契約が解除された場合、売主は、受領済みの金員を無利息で遅滞なく買主に返還しなければならない。
参照:全国宅地建物取引業協会連合会(土地売買契約条項から抜粋)
不動産を売買する際、契約書に上記のような項目があり、簡単に言うと住宅ローンがどこの金融機関でも通らなかった場合、定められた期日内であれば、契約を白紙撤回できるということです。
これを「融資特約」や「ローン特約」と言い、この場合、手付金は売主から返還されます。
気を付けなければいけないのは、融資特約は必ずしも契約内容に含まれていないということです。
ローンで物件を購入する際は、不動産会社はほぼこの融資特約を付けましょう。
(引渡し前の滅失・毀損)
第16条 第1項
本物件の引渡し前に、天災地変その他売主又は買主のいずれの責にも帰すことのできない事由によって本物件が滅失したときは、買主は、この契約を解除することができる。
第4項
第1項によってこの契約が解除された場合、売主は、受領済みの金員を無利息で遅滞なく買主に返還しなければならない。
参照:全国宅地建物取引業協会連合会(土地売買契約条項から抜粋)
上記は、手付金を支払った後、残代金支払いまでの間に、地震や台風などで不動産が引渡しできないレベルになってしまった場合、契約を解除できるということです。
簡単に言うと「誰のせいでもない理由で引渡しができない状態になった」場合は契約が解除され、手付金が戻ってきます。
- 手付金は4つの意味があり、基本的には正式に契約が結ばれた証拠としての「証約手付」の意味を持つ。
- 手付金を払った後(契約後)、買主は手付金を放棄、売主は倍返しをすることで契約を解除できる。
- ローンが通らなかった場合、また地震や台風などで不動産が引渡し不可能になった場合、契約を白紙にでき、手付金を返還してもらえる場合がある。
手付金は売買契約後に支払うと返ってこない
手付金は基本的に売買契約時に全額支払う必要がありますが、後払いにする場合には注意が必要です。
もし手付金を契約後に支払うと、手付契約自体が成立しないため、契約解除時の「手付解除」ができなくなります。
つまり、契約を無効にする際に手付金を放棄することができないというリスクが発生します。
また、後払いで支払われた金額は「手付金」ではなく「中間金」や「内金」として扱われます。
手付金は契約解除の際に没収されますが、中間金や内金は返金されるため、性質が異なります。
この違いを理解しておくことが重要です。
例えば、手付金を契約時に支払おうとしたが、銀行の引き出し制限により全額を引き出せなかった場合、後日振り込みで手付金を支払うことも可能です。
ただし、その際は売主が着金を確認した時点で契約が正式に成立したと見なされるため、契約書の日付には注意が必要です。
さらに、宅建業者(不動産業者)が手付金を後払いにするなどの対応は「宅建業法」に違反する場合があります。
宅建業法では、手付金の貸付や後払い、分割払いを禁止しており、これに違反すると行政罰や刑事罰の対象となる可能性があります。
不動産業者が手付金の後払いを提案してきた場合は注意が必要です。
このような行為は買主を急かして契約を強要することを防ぐために禁止されており、適切な手続きを守ることが重要です。
手付金の相場と少額のリスク
一般的に、手付金の相場は売買代金の5%から10%のケースが多いです。
例えば、4,000万円の物件であれば、手付金は200万円から400万円が目安です。
ただし、この金額は売主と買主の合意で決まるため、取引の状況によって変動することもあります。
また、法律で手付金の上限は20%以内と定められています。
上限はありますが、下限はありません。そこで極端なケースですが手付金6円というケースも過去にはありました。
小島解説員
山口編集者
しかし、手付金を安くするということは一概に良いこととは言えず、少額手付は先々問題が生じる可能性もあります。
前述したように、手付金には解約手付としての意味もあります。
買主は手付金を放棄、売主は手付金を倍返しすることで契約を解除できます。
もし仮に手付金が1円だったとすると、買主は1円を放棄することで契約を解除することができます。
小島解説員
山口編集者
ここで気付かれると思いますが、これが手付金を安くするリスクです。
手付金が安い場合、売主から契約を解除されてしまうリスクが高まります。
このように手付金を低額にしてしまうことは、契約の効力を弱める結果になってしまいますので、手付金の額は物件価格の5%から10%になるように心がけるべきです。
申込証拠金と手付金は違うもの
前述した申込証拠金と手付金は違います。
申込証拠金は買主の購入の意思を確認し、その証拠として売主に預託されるお金です。
契約が成立した時は売買代金の一部に充当され、不成立の場合はその時点で返済される単なる預かり金のため、手付金の4つの意味は持っていないので注意が必要です。
手付金はローンで借りられない
手付金は原則は現金で用意しなければいけません。
なぜ現金のみの取り扱いかというと振込の場合は手付金の着金が翌日以降になり、タイムラグが発生してしまうからです。
その場合、手付金をカードローンなどで借金して準備しようとする方がいますが、結論から言うと絶対にしてはいけません。
- 手付金の額は物件価格の5%から20%が一般的。
- 手付金を安くしすぎると、売主から契約解除されるリスクが高まるため、避けたほうが良い。
- 申込証拠金は手付金は違う。手付金のもつ性質はない。
- 手付金は現金で用意する必要がある。
手付金の相場と保全
手付金は不動産取引において重要な役割を果たしますが、その保全措置や法律の規制も非常に大切です。
本章では、手付金の保全に関する制度や少額の手付金を対象とした保証制度、さらには手付金額に関する法律の規制について詳しく解説します。
手付金の保全
手付金の保全に関しては、手付金が売買代金の10%または1,000万円を超える場合、売主である不動産会社は「保全措置」を講じる義務があります。
これは、不動産会社が万が一倒産した場合でも、買主が支払った手付金が保護されるようにするためです。
保全措置の方法としては、不動産保証協会などでの保証や、銀行による保証、保険事業者による保証保険などがあります。特に、完成物件の場合は、これら3つの方法から選択されます。
具体的には、【1】売主が宅建業者であり、【2】買主が一般消費者であること、【3】物件が完成していること、【4】手付金の合計が売買代金の10%または1,000万円を超える場合に、指定保管機関を利用した保全措置が必要です。
一方、未完成物件においては、銀行や保険会社による保証が主な手段となります。
こうした保全措置を確認することで、万が一の事態にも手付金が安全に保護され、安心して取引を進めることができます。
少額の手付金を保証する一般保証制度
少額の手付金に対しても、契約時のリスクを軽減するために「一般保証制度」が存在します。
この制度は、売主である不動産会社に支払う手付金や仲介会社に支払う仲介手数料に対して適用され、万が一、不動産会社や仲介会社が倒産してしまった場合でも、支払った金額を保証してくれる仕組みです。
例えば、売買契約後に不動産会社が経営難に陥ったり、契約解除の際に返金が受けられないというリスクに対して、買主は大きな不安を抱えることがあります。
一般保証制度は、そうした状況に備えるためのもので、手付金や仲介手数料が比較的少額であっても、買主を保護するために機能します。
通常、手付金が売買価格の10%以下、もしくは1,000万円未満の場合、保全措置が義務付けられていないケースが多いですが、この一般保証制度により、安心して取引を進められるよう配慮されています。
保証協会や不動産保証協会がこの制度を通じて手付金や手数料を保護しているため、万が一のトラブルにも対応できる仕組みです。
手付金額に関する法律の規制
手付金の額に関する法律には、いくつかの重要な規制があります。
一般的に、売買契約における手付金は、売買代金の5%から10%が目安とされています。しかし、不動産会社(宅建業者)が売主となる場合には、法律により手付金の上限が設けられています。
具体的には、売買代金の20%を超える手付金を受領することは禁じられています。
この規制により、過剰な手付金を要求されることがなく、取引の透明性が確保されています。
一方で、不動産会社以外の売主との取引では、手付金の額は当事者間で自由に決定することができます。
手付金が0円での契約も可能であり、手付金を2,000万円に設定することも法的には問題ありません。
ただし、手付金を0円に設定した場合、売主と買主の双方が手付解除を行えなくなるため、万が一の事態が発生した際のリスクが高まります。
このため、手付金を適切に設定することが、安心して取引を行うためには非常に重要です。
以上のように、手付金の額に関する法律の規制を理解することで、不動産取引におけるトラブルを避け、より安全な取引が実現できます。
手付金と頭金の違い
頭金とは住宅を購入する際に、ローンを借りずに現金で支払うお金です。
- 頭金=物件価格―住宅ローンによる借入金
頭金は手付金とは違う
頭金は手付金と違い、必ず用意しなければいけないものではなく、また、いくら用意しなければいけないという決まりもありません。
そして、頭金は手付金のもつ証約の効力、解約できる効力を持っていません。
頭金を支払うタイミングは残代金の支払いの時です。住宅ローンを組まれる方は、基本的にこの残代金をローンで支払いますが、一部を頭金として支払うことでローンの借入額を少なくするために頭金を入れます。
過去最低の金利と言われている今日、フルローンでも物件を購入できるにもかかわらず、頭金を入れる理由としては、以下のような理由が考えられます。
毎月のローン返済負担額が減る
頭金を入れるとローンの借入額が減り、毎月のローン返済額を減らすことができます。
金利の優遇を受けられる
全期間固定金利型のローンで有名なフラット35では、頭金を用意するかしないかで金利が変化します。
融資率 | 金利 |
9割以下(頭金を1割用意) | 年1.110% |
9割超え(頭金なし) | 年1.550% |
※フラット35 返済期間21年以上35年以下、2019年10月時点での最低金利(ARUHI住宅ローン最新金利)
それでは、実際に頭金を用意して金利が変化することでどれくらい差が生まれるか、シミュレーションしてみましょう。
例:4000万円の住宅を頭金なしの場合、頭金400万の場合
金利 | 借入額 | 毎月返済額 | 総支払額 | |
頭金なし | 年1.550% | 4,000万円 | 123,455円 | 51,851,276円 |
頭金400万円 | 年1.110% | 3,600万円 | 74,734円 | 47,487,422円 |
※総支払額には頭金を含む
頭金を用意しない場合では、頭金を用意した場合に比べて総支払額が4,363,854円高くなっています。金利の優遇を受ける恩恵は大きいですね。
金利の優遇があるかどうかは各銀行によって異なります。ローンを組まれる際は、頭金を入れることで、金利の優遇があるか確認しましょう。
以上、手付金と頭金の違いを解説してきましたが、 必ず用意しなければいけない手付金と用意したほうが金利の優遇が受けられる頭金。それぞれが持つ意味を理解し、不動産購入の参考にしてください。
- 頭金は手付金とは違い、必ず用意しなければいけないお金ではない。
- 頭金を入れることでローンの借入額を減り、毎月の返済額を抑えることができる。
- 頭金を入れれば金利の優遇を受けられることがある。
まとめ
本記事では、不動産の手付金に関する基本的な概念やその重要性について詳しく解説しました。手付金は、売買契約の際に重要な役割を果たし、取引の信頼性を高めるために必要です。また、手付金にはさまざまな意味やケースがあり、返金条件や相場についての理解が不可欠です。
さらに、手付金の保全措置や法律の規制についても触れ、特に少額の手付金を保証する制度についての情報を提供しました。契約解除の期限についても注意が必要であることを確認しました。
最後に、手付金と頭金の違いを理解することで、資金計画をよりスムーズに進められるようになるでしょう。これらの知識を基に、不動産取引を安全かつ安心して進めていただければ幸いです。