不動産売却は鑑定と査定どっちが有利?違いや活用シーン、費用と期間の差、どちらを活用べきかを解説


この記事を書いた人
小島 優一
宅地建物取引士

宅地建物取引士、2級ファイナンシャルプランニング技能士。生命保険会社にてリテール業務に従事した後、2014年に不動産仲介会社であるグランドネクスト株式会社を設立。 2021年より幻冬舎ゴールドオンラインにて不動産を通じて財産を守る、増やす、残す記事を連載している。 >> 詳細はこちらから

この記事のざっくりしたポイント
  1. 不動産鑑定は公的機関などへ不動産価格を証明するために使われることが多い
  2. 不動産査定は不動産を売却するときの目安価格を算出したいときに使われる
  3. 特に鑑定を依頼しなければならない理由がないのであれば不動産査定を使うと良い

不動産を売却する際に不動産の価格を算出する方法は「不動産鑑定」と「不動産査定」の2種類あります。ただ、どちらの方法を利用すべきか悩んでいませんか?

この記事では不動産鑑定と不動産査定の違い、不動産鑑定と不動産査定を依頼するケース、不動産鑑定と不動産査定の費用や時間について解説します。この記事を読むことで不動産鑑定と不動産査定をどのような場合に利用すべきか理解できるようになるのでぜひ読んでみてください。

不動産鑑定と不動産査定の違い

この章では不動産鑑定と不動産査定では具体的に何が違うのか、それぞれどのようなケースを鑑定や査定と呼ぶのか解説します。不動産の価格を知りたいけど、鑑定か査定のどちらを選択するか悩んでいる場合は参考にしてみてください。

結論から言っておくと…一般的な不動産売却時は鑑定ではなく査定を利用します。

小島解説員小島解説員

鑑定は不動産鑑定士の国家資格を持つもののみが鑑定できる

鑑定とは不動産の適正な価格を算出して、第3者に不動産の価値を証明するために利用する方法です。鑑定をできるのは不動産鑑定士か不動産鑑定士補のみで、国土交通省が定める不動産鑑定評価基準に基づいて行います。個人が不動産の鑑定を行うケースは以下の4つです。

個人が不動産の鑑定を行うケース
  1. 不動産の売買
  2. 相続
  3. 贈与
  4. 財産分与

鑑定を行う代表的なケースは遺産相続で分配を行うときです。というのも適正な価格を査定しておかないと、遺産を公平に分配できずに相続人同士でトラブルに発展するリスクがあるからです。

MEMO
国が認めた不動産鑑定士に鑑定をしてもらえば適正な価格を算出できるのでトラブルリスクを抑えられます。

査定は不動産会社による営業行為のひとつ

査定は不動産会社が査定主に対して仲介サービスを提供するために行う営業行為のひとつです。そのため不動産会社の査定は無料で行われます。そして鑑定とは違い、査定には明確なルールが決められているわけではありません。

一般的には「取引事例比較法」を利用して、周辺の成約事例を基に査定額を算出していきます。査定のデメリットは裁判所や税務署に出すような公的な書類にはならない点です。

渡邊編集者渡邊編集者

つまり査定はあくまでも不動産が売却できそうな価格を知るために出す参考価格になります。

不動産鑑定を使うケース

不動産鑑定を使うケースは銀行・税務署・裁判所など公的機関に対して適正な不動産価格を提示する必要がある場合に依頼されることが多いです。以下事例ごとに見ていきましょう。

相続税の申告時

例えば相続税の申告をする場合、土地の相続税評価額は路線価により計算をします。しかし土地によっては不動産鑑定士の鑑定額で申告すれば、相続税を節税ができることがあります。

MEMO
この場合、不動産鑑定士は税務署に対して適正な不動産価格を提示するために鑑定を行います。

法人が不動産売買する場合

ほかにも会社とその会社の経営者が不動産売買を行うときに鑑定を使うことがあります。というのも、その売買によって所得税の節税を行うのであれば、正当な価格で不動産売買をした証明が必要になるからです。

会社とその会社の経営者が不動産の売買をした場合、不動産価格を証明する書類がなければ税務署に脱税では?と怪しまれるリスクがあります。そこで経営者は不動産鑑定士から適正な価格で不動産売買を行ったことの証明として鑑定をしてもらう必要があるのです。

MEMO
鑑定は鑑定評価基準に沿って行われるので鑑定書があれば税務署に提出するための証拠書類になります。

不動産査定を使うケース

一方、不動産査定は不動産を売却する前に不動産業者に依頼するケースが多いです。なぜなら素人に不動産が売れそうな価格を見極めるのは難しいからです。不動産査定は物件の価格や土地の価格に加えて、物件の損傷額(室内の傷や汚れなど)も加味して行います。

もし査定をせずに自分で売却価格を決めてしまうと、以下のような事態になりかねません。

自分で売却価格を決めてしまうと起こりやすい事態
  • 売却価格が安すぎた場合、損をする
  • 売却価格が高すぎた場合、買い手がつかず売れない

逆に不動産業者の立場から考えても、無料で査定を行うことで自社に物件を売却してくれる可能性があります。つまり不動産の査定は顧客・不動産業者の双方にとってメリットがあるのです。

不動産の鑑定と査定では価格が異なる

ここからは不動産の鑑定と査定では価格が異なる点について解説します。

不動産を売却する場合、不動産の鑑定と査定では提示される価格が、以下のように異なる点に注意しましょう。

小島解説員小島解説員

不動産の鑑定と査定で異なる価格
  • 鑑定の場合は低めの価格で提示される
  • 査定の場合は高めの価格で提示される

それでは不動産の鑑定価格と査定価格の特徴について、それぞれ解説します。

不動産鑑定士の鑑定評価の特徴

まず不動産鑑定士が価格を低めに設定する理由は、価格を鑑定したことで売り主に損害を与えないためですそもそも、売り主が不動産鑑定を依頼する目的は適正な価格を知ることでローンの返済や資金調達の計画を立てる狙いがあります。

もし売却金額が鑑定額よりも著しく低ければ、予定された金額と違うので当初の資金調達などができなくなる恐れがあるのです。

そのため不動産鑑定士としては、このような事態になることを避けるために鑑定額を低めに提示するのです。

不動産査定の査定価格の特徴

一方、不動産会社が出す査定額は高めに提示されることが多いです。なぜなら不動産の売却先を複数の業者から選ぶことが多いからです。
売り主は当然ながら不動産を高く売りたいと思っています。そのため高めの査定額を提示すれば媒介契約を結び自社で不動産を仲介できるのです。

このような事情があるので不動産鑑定よりも査定の方が価格は高くなる傾向にあります。もちろん買い手を見つけるまで期限がある場合などは、すぐに買い手が付くように査定額を低めに出すこともあります。

渡邊編集者渡邊編集者

売主の立場では査定価格の「高さ」だけでなく、「算出した根拠」を比較することが重要です。根拠が信頼できれば、その不動産会社は信頼できます。

鑑定評価と査定価格の違い まとめ

不動産鑑定士に鑑定を依頼すると売主に損害を与えないためにも低めの価格を提示される傾向があります。

一方、不動産業者の査定では高めの金額を出した方が売り主に選ばれやすいため高めの価格を提示されることが多いです。

不動産鑑定と不動産査定にかかる費用や期間について

不動産鑑定と不動産査定をした場合にかかる費用やその期間について解説します。現在の予算だけでなく、どのぐらいの期間で不動産を売却するかによって選ぶべき方法も変わってくるので、ぜひ参考にしてみてください。

不動産鑑定にかかる費用と鑑定までの流れ

不動産鑑定士は自由に鑑定費用を決められますが、基本鑑定報酬額表をもとに、鑑定事務所の基準で鑑定費用が決まります。

基本鑑定報酬額表

評価額 宅地または建物所有権 宅地見込地の所有権
500万円まで 145,000円 193,000円
1,000万円まで 145,000円 241,000円
1,500万円まで 157,000円 313,000円
2,000万円まで 181,000円 362,000円
2,500万円まで 199,000円 398,000円
3,000万円まで 211,000円 422,000円
4,000万円まで 229,000円 458,000円
5,000万円まで 253,000円 494,000円
6,000万円まで 277,000円 518,000円
8,000万円まで 313,000円 554,000円
1億円まで 351,000円 592,000円

出典:株式会社東京合同鑑定事務所

つまり鑑定事務所によって鑑定費用が若干違います。また鑑定対象が建物だけの場合は、建物と土地の両方の鑑定を行うよりも数万円費用を抑えられます。

しかし所有権が複雑な場合や借地権が付いている場合など調査に手間や時間がかかる場合は、費用も高くなるので注意が必要です。

MEMO
また不動産鑑定士を選ぶ際には鑑定してもらう地域に詳しい鑑定士を選べば、より公平な価格を算出してもらうことができます。

不動産鑑定士に依頼する手順

不動産鑑定士には以下の手順に沿って依頼します。

不動産鑑定士に依頼する手順
  1. 料金見積もり
  2. 依頼書兼承諾書を結ぶ
  3. 現地での調査
  4. 鑑定評価書の作成

料金の見積もり時には必ず鑑定をしてもらう理由や目的について説明しましょう。不動産鑑定にかかる期間は概ね1,2週間ですが、権利関係が複雑な場合などは鑑定期間が長くなります

鑑定に必要な書類

不動産鑑定時には以下の書類が必要になるので早く鑑定をしてもらえるように、事前に揃えておいてください。

鑑定に必要な書類
  1. 登記簿謄本
  2. 依頼書兼承諾書
  3. 公図
  4. 住宅地図
  5. 建物図面図、各階平面図
  6. 地積測量図

渡邊編集者渡邊編集者

鑑定の流れは査定とはだいぶ違うので注意しましょう。

出典:株式会社梅田不動産鑑定事務所

不動産査定にかかる費用と査定までの流れ

上述したように不動産査定に掛かる費用は無料です。不動産査定の方法には、以下のように易査定と訪問査定の2種類あります。

簡易査定 電話やネットで行い、物件を見ずにだいたいの金額を算定する方法
訪問査定 物件の情報だけでなく、訪問してもらい1~2時間ほどで査定してもらえる

簡易査定と訪問査定の違い

簡易査定とは電話やメール・ネットからの申込者の情報と不動産の情報を調べて査定する方法です。ただ実際に物件を見学するわけではないため、詳細な価格を知りたい人には訪問査定をおすすめします。

訪問査定とは物件の情報に加えて不動産業者が実際に現地に足を運んで査定する方法です。

訪問査定のチェックポイント

訪問査定では以下の点をチェックします。

訪問査定のチェックポイント
  • 建物の立地や周辺環境
  • 建物の構造
  • 外装の状況
  • 屋内の状況
  • 建物種類や築年数
  • 日当たりなど

簡易査定ではわかりにくい建物の状態や設備、周辺施設や交通量などより詳しい調査が行われるので、より正確な査定金額がわかります。

訪問査定までの準備

訪問査定時は以下の書類を準備しておくことでスムーズに査定してもらうことができます。

訪問査定時に準備しておきたい書類
  • 売買契約書
  • 重要事項説明書
  • 建物の図面
  • 固定資産税を納付した際の領収書
  • 管理規約(マンションの場合)

不動産の査定に掛かる時間は簡易査定が当日~翌日、訪問査定は1週間程度かかります。

不動産鑑定と不動産査定の特徴 まとめ

不動産鑑定と不動産査定の特徴についてまとめます。不動産鑑定と不動産査定の違いを表にまとめると以下のとおりです。

  不動産鑑定 不動産査定
評価する人 不動産鑑定士や不動産鑑定士補 不動産業者
かかる費用 数十万円 無料
提示価格の特徴 低めの価格で提示 高めの価格で提示
結果が出るまでの期間 1週間~2週間前後 当日~2日
利用目的 適正な不動産価格を証明したい 不動産が売れそうな価格を知りたい
依頼する数 1社のみ 複数の業者に依頼する

上記の違いを頭に入れておきましょう!

小島解説員小島解説員

不動産鑑定と不動産査定どちらを選ぶべき?

不動産鑑定と不動産査定のうち、どちらを選ぶべきかについて解説します。不動産鑑定を活用すべき人と不動産査定を活用すべき人は異なります。

上述のように一般的な不動産売却は「査定」を利用します!

小島解説員小島解説員

不動産鑑定を活用した方が良い人の特徴

不動産鑑定を活用したほうが良い人は以下のような人です。

不動産鑑定を活用したほうが良い人
  • 相続の際に遺産分割を公平にやりたい人
  • 相続税の申告で節税をしたい人
  • 離婚の際に財産分与をする人
  • 親族間で不動産売買をしなければならない人

以上の事例の人は適正な不動産価格を知る必要があります。適正な価格がわからなければトラブルになる可能性があるので、鑑定をしてもらうことで公平に問題解決ができます。

不動産査定を活用した方が良い人の特徴

不動産査定を活用した方が良い人は以下のような人です。

不動産査定を活用した方が良い人
  • 不動産の売却価格をすぐに知りたい人
  • 複数の業者の査定金額を知りたい人
  • 無料で不動産価格を知りたい人

不動産を売却したい場合、売却すること以外の目的がなければ、不動産査定がおすすめです査定は複数社の価格を同時に知ることができ、鑑定よりも早く売却価格を知ることができます。

MEMO
税務署や親族などに証明をする必要がない場合は不動産の査定で十分です。

まとめ

不動産の鑑定は不動産鑑定士や不動産鑑定士補でなければ鑑定できません一方、不動産査定は多くの不動産業者が行っています。

鑑定は公的機関などへ不動産価格を証明するために使われることが多いです。査定は不動産を売却するときの目安価格を算出したいときに使われます。

不動産鑑定は費用や時間もかかるので特に鑑定を依頼しなければならない理由がないのであれば不動産査定を使いましょう。

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